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こんにちは。ドクガギャラリーへようこそ。私はキュレーターのケート・リキーテと言います。

今回の展示のテーマはWebCMのアニメーション。あまり知られていませんが、実は最近独自のアニメを使ったCMが、様々なスケールで登場しているのです。すでに有名なキャラクターを使うのではなく、アニメそのものが持つ自由な表現に、企業が社会的な重要性を見出し始めた現在。その中から厳選したアニメを紹介します。

まず紹介するのは、村上隆さんがコスメブランドのシュウウエムラのために作ったアニメ作品、「SIX HEART PRINCESS」。

​まず驚くのは、CMというよりかはむしろアニメそのままといっていいほどの純度の高さ。小さい女の子が好きな、変身もののアニメそのもののように見えますが、なぜこれが高級ブランドのCMになり得たのでしょうか?

作者の村上隆さんは世界的なアーティスト。このアニメも、CMという形をとった一つのアートとも言えます。現代の美術の関心は「どんな題材を使って、何を表現するか」というところにありますが、村上さんの場合はアニメなどのサブカルチャーを題材に用いている。つまりこのCMにおいて、アニメは表現のための題材として使われているのです。

​CMのキャラクターは既存のものでなく、村上さんによるオリジナル。「魔女っ子モノの舞台は、大抵郊外。だけどこのアニメでは初めて舞台を秋葉原にした」と村上さんは語っていますが、この変更こそが一番のポイントだと思うのです。今までの魔女っ子ものが少女に寄り添うものなら、今回のアニメは、大人になっても少女的な願望をどこかに抱えている人に向けたものだと言えます。そしてそういった人達こそ、変身を叶えてくれるコスメティックを必要としている人達なのです。

次は新海誠監督によるZ会のCM、「クロスロード」。

「君の名は。」で一躍有名になった新海さんだけれど、これが作られた時には既に新海ブランドはあったようで、このCMもタイアップの形を取っていますね。「君の名は。」の時も別の会社でタイアップCMは作られましたが、多くのタイアップがそうであるように、もともとある映画のシーンに、商品を登場させただけであったことを考えると、ストーリーから挿入歌の歌詞まで新海さんが1から作ったこのCMは、タイアップCMという枠を超えて、同時期に作られ始めていたであろう「君の名は。」につながる要素を感じさせる、新海さんのキャリアの中の重要な1ピースと見ることができます。

通信講座は塾と違い同じ目標を持つ人同士で直に集まって切磋琢磨できません。しかし普通はマイナス面として捉えられる面に、世界のどこかにいる自分の運命の人と通信講座を通して繋がっている可能性を新海さんは見出したのです。価値観の転化。それこそ新海さんの持ち味だと思います。非日常を描く道具だったアニメで日常の風景を描き、個人の心情を丁寧に表現する。自分の中の価値を大切にして独自のアニメを作り続けてきた新海さんにとってのCM作りは、その延長線上にあるのです。次は表参道の情報サイトのCM、「ももんずさんどういっち」。

再生数の面では先ほどまでの2作に比べると桁違いに少ないです。残念なことに。このシリーズは何作も作られていますがYoutube版は再生回数わずか数百回どまり。いったいなぜなのか、その理由を説明するのは難しいけれど、一つの可能性として、分かりやすさとは対極の道を勇敢にもこのアニメは突き進んでいるからかな、と思います。アニメから伝わるのは、宣伝より物語や世界を作りたいという強い気持ちです。主人公が関西弁なのがまず衝撃的。なぜという間もなく、次々と謎の設定が飛び込んできます。

しかしどうやら、何も考えずに作られているわけではなく、話のオチや、次につながる伏線など、話はCMとは思えないほど練られています。私たちは、次はどんな驚きが飛び出すかワクワクしつつ、この話はどこへ向かうのかという問いに引っ張られ続けるのです。自分でも完全に分かりきっていないものを人に紹介するのは難しい。加えて人に見ていることを自慢できるような難解そうな見た目をしていないこの動画は、あまり日の目を見ていません。私たちはこの説明できない面白さを、ひっそりと胸に抱えていくしかないようです。次もマイナーなCMです。

柏市に住んでいるクリエイターが集まって柏を舞台にしたアニメを作ることで、柏を聖地にしよう、というプロジェクトが立ち上がりました。クラウドファンディングによって、資金30万円を調達して無事作られたアニメ「超普通都市カシワ伝説」。またそれと並行して、お金を出してくれた団体へのお返しとして、そのアニメのキャラクターを使ったCMがいくつも作られました。てな訳でCMはもともとついでだったのですが、このCMの方が私は面白く感じます。CMを作ってもらった団体は、だいたいが柏で個人経営しているような、地元民しか知らなそうなところばかり。

​しかも観光者向けじゃなくて、明らかに地元の人が利用する感じの店のCMもあります。使う機会があるかわからない私たちにとってそれらはもはやCMと言うより、旅番組のようなエンターテイメントです。お金があまりかかっていないアニメだからこそ、色々な団体が参加して、全体として独自の世界観を作り出したんでしょうね。予算はかかっていなくても、脚本、キャラクターデザイン、音楽はちゃんと一線の柏市在住のプロの人が担当しているからなのか、アニメはきちんと面白い。ここも大事なポイントです。最後に紹介するのはノイタミナのCM、「ポレットのイス」。

​ノイタミナ10周年記念として作られたオリジナルのweb限定アニメ。制作したのは、若手が中心の気鋭のアニメスタジオ、スタジオコロリド。CGを使った迫力のある空を飛ぶシーンを得意とします。このスタジオはまた、パズドラのCMなどのCM作りにも精力的です。これから目にしていく機会も増えていくでしょう。さてこのアニメ、10周年企画ということで、10年の経過がテーマとなっています。幼い頃のポレットの遊び相手だったけれど、ポレットが成長するにつれて体に合わなくなってしまい、次第に使われなくなる非現実的な動く椅子に、アニメという存在が重なります。

新海誠監督は「多感な時期の心の傷を癒す絆創膏のようなアニメでありたい」と言いましたが、このCMでも、同じようなメッセージが根底に流れています。子供時代の自分と大人の自分の間に入って、両者をうまくつなぐこと。大人向けのアニメも多く発信しているノイタミナが、今一度原点に立ち戻って見つめ直して考えた答えが、このCMにあると思うのです。そしてその後ノイタミナの冒頭にこのアニメが使われることになったことからもわかるように、そのメッセージはこれからもノイタミナのスローガンとして大事にされ続けるのです。いかがでしたか。また次のコレクションの時にお会いしましょう。

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